技術コラム
制御盤のIP保護等級(IPコード)とは?試験方法・等級一覧から等級を満たす板金設計まで専門的に解説
1. IPコードの規格と全体構造
1-1. IPコードとは何か(IEC 60529/JIS C 0920)
IPは「International Protection(または Ingress Protection)」の略で、電気機械器具の外郭による保護等級を定めた指標です。国際規格はIEC 60529、日本国内の整合規格はJIS C 0920(電気機械器具の外郭による保護等級(IPコード))で、両者は大枠で同一の内容です(検査手順など細部に差異はあります)。
ここでいう「外郭」とは、外部からの影響に対して内部の電気機器を保護し、かつ人体(や家畜)が充電部などの危険な箇所へ直接接触することを防ぐために設けられた部分を指します。つまりIPコードは、防塵・防水という“機器保護”と、感電防止という“人体保護”の二つの側面を同時に表しています。
1-2. IPコードの完全な書式
IPコードは、次の4要素で構成されます。実務で使われるのは前2要素が中心ですが、後2要素の意味を理解しておくと仕様書を正確に読み解けます。
| 要素 | 記号の例 | 内容 | 要否 |
| 第一特性数字 | 0〜6 / X | 外来固形物の侵入・危険な箇所への接近に対する保護 | 必須(省略時はX) |
| 第二特性数字 | 0〜9 / X | 水の侵入に対する保護 | 必須(省略時はX) |
| 付加特性文字 | A・B・C・D | 人体の危険な箇所への接近に対する保護(追加表示) | 任意 |
| 補助文字 | H・M・S・W | 高電圧機器、可動部の状態、気象条件などの補助情報 | 任意 |
「X」の意味:該当する試験を行わない(等級を指定しない)桁は「X」で表記します。これは無保護の「0」とは異なり、“数字表記をしないだけで、なんらかの保護がある可能性を含む”点に注意が必要です。たとえば「IP5X」は防塵等級5を保証しますが、防水は試験対象外という意味になります。
2. 第一特性数字(固形異物・接触保護)と試験方法
第一特性数字は、(1) 人体の一部や工具などの危険な箇所への接近の制限(人体保護)と、(2) 外来固形物の侵入からの機器保護、という2条件の両方に適合する等級を示します。試験には、人体を模擬した「近接プローブ/関節付きテストフィンガ」と、固形異物を模擬した「固形物プローブ」が用いられます。
| 数字 | 固形異物に対する保護 | 接触保護(プローブ) |
| 0 | 保護なし | ― |
| 1 | 直径50.0mm以上の固形物が侵入しない | 手の甲(直径50mm球) |
| 2 | 直径12.5mm以上の固形物が侵入しない | 指(直径12mm・長さ80mmの関節付きテストフィンガ) |
| 3 | 直径2.5mm以上の固形物が侵入しない | 工具(直径2.5mmプローブ) |
| 4 | 直径1.0mm以上の固形物が侵入しない | 電線(直径1.0mmプローブ) |
| 5 | 防塵形:危険な量の粉塵が侵入しない | 直径1.0mmプローブ |
| 6 | 耐塵形:粉塵の侵入が完全にない | 直径1.0mmプローブ |
2-1. 防塵試験(IP5X・IP6X)の中身
防塵試験では、粒径約50μm以下のタルク粉末を用いた粉塵チャンバ内に外郭を置いて試験します。IP5X(防塵形)は“機器の動作を妨げる量の粉塵が侵入しない”レベル、IP6X(耐塵形)は“粉塵の侵入が全くない”レベルです。
カテゴリの区別:防塵試験は、外郭内部を負圧にして試験する「カテゴリ1」と、負圧にせず試験する「カテゴリ2」に分かれます。盤の内部圧力が周囲より低くなり得る構造(放熱で内外に圧力差が生じる盤など)はカテゴリ1で評価されるのが一般的で、より厳しい条件となります。
3. 第二特性数字(防水)と試験方法
第二特性数字は、水の侵入に対する保護等級を0〜9で示します(9はIEC 60529側の高圧・高温噴流。JISでも整合が進んでいます)。重要なのは、各等級が「滴下・散水・噴流・水没」という質的に異なる試験で定義されており、単純な上下関係ではないことです。試験は原則として真水で行われます。
| 数字 | 保護の内容 | 試験方法の要点 | |
| 0 | 保護なし | ― | |
| 1 | 鉛直に落下する水滴 | 規定の滴下装置で鉛直落下 | |
| 2 | 15°以内で傾けても落下水滴 | 外郭を15°傾けた状態で滴下 | |
| 3 | 散水(防雨形) | 鉛直から両側60°の範囲で散水/振動管またはノズル | |
| 4 | 飛沫(防沫形) | あらゆる方向からの飛沫 | |
| 5 | 噴流(防噴流形) | φ6.3mmノズル・約30kPaで全方向噴射 | |
| 6 | 強い噴流(耐水形) | φ12.5mmノズル・約100kPaで全方向噴射 | |
| 7 | 一時的な水没(防浸形) | 規定水深(目安:水深1m・30分)に水没 | |
| 8 | 継続的な水没(水中形) | 1mより深い水深。条件はメーカー規定 | |
等級は単純な上位互換ではない:たとえばIP◯7(水没)はIP◯5・◯6(噴流)を必ず包含するわけではありません。水没試験と噴流試験は評価する現象が異なるため、噴流と水没の両方が想定される用途では「IPX6/IPX7」のように併記されることがあります。カタログ数値の大小だけで判断しないことが肝要です。
3-1. 洗浄環境では真水試験の限界に注意
規格の防水試験は真水で行われます。食品工場や車両の洗浄など、界面活性剤(洗剤)を含む水がかかる環境では、表面張力の低下により真水では侵入しなかった微小な隙間から水が入る場合があります。こうした用途では、実使用条件を想定した追加評価や、より高い等級・構造の採用を検討すべきです。
4. 付加特性文字・補助文字とIPコードの読み解き
4-1. 付加特性文字(A・B・C・D)
付加特性文字は、人体の危険な箇所への接近に対する保護“だけ”を、第一特性数字とは別に表すためのものです。第一特性数字が示す接触保護より上位の保護がある場合などに用いられます。
| 文字 | 接近を模擬するプローブ |
| A | 手の甲(直径50mm球) |
| B | 指(関節付きテストフィンガ) |
| C | 工具(直径2.5mm) |
| D | 電線(直径1.0mm) |
4-2. 補助文字(H・M・S・W)
| 文字 | 意味 |
| H | 高電圧機器であることを示す |
| M | 可動部を運転(動)状態にして防水試験を実施 |
| S | 可動部を停止状態にして防水試験を実施 |
| W | 規定の気象条件(風雨など)向けの補足 |
4-3. コードの読み解き例
IP65:φ1.0mmプローブによる接触保護+完全防塵(6)と、φ6.3mmノズル・約30kPaの全方向噴流水に耐える(5)。屋外・洗浄環境の制御盤で広く要求される。
IP2XD:第一特性数字2(φ12.5mm固形物の侵入なし・指の接近保護)+防水は非指定(X)+付加文字D(φ1.0mm電線の接近まで保護)。防水は問わないが、細い工具の接触までは確実に防ぎたい盤に用いられる表記。
IPX7:固形物側は非指定(X。無保護ではない)+水深規定での一時的水没に耐える(7)。
5. 制御盤でよく使われる等級と用途の対応
| IP等級 | 保護の要点 | 代表的な設置環境・用途 |
| IP20 | 指の接触保護/防水なし | 空調された電気室・盤室。換気/開放を要する盤 |
| IP44 | φ1.0mm固形物/全方向飛沫 | 一般屋内。粉塵の少ない設備近傍 |
| IP54 | 防塵形/全方向飛沫 | 粉塵・切削油・時々の水滴がある工場・操作盤 |
| IP55 | 防塵形/噴流水 | 屋内外中間。軽度の水洗がある環境 |
| IP65 | 完全防塵/噴流水 | 屋外設置、ホース洗浄が想定される現場 |
| IP66 | 完全防塵/強い噴流水 | 過酷な屋外・高圧洗浄環境 |
| IP67 | 完全防塵/一時的な水没 | 冠水・浸水リスクのある特殊環境 |
出発点の目安は、乾燥屋内=IP20〜44、粉塵・水滴のある工場内=IP54前後、屋外・洗浄環境=IP65以上です。ただし最終判断は、次章の手順で「どの異物・水が、どの方向から、どの程度」かかるかを具体化して行います。
6. 環境からIP等級を決める設計手順
- 設置環境を特定する:屋内/屋外、粉塵・オイルミストの有無、水のかかり方(雨・飛沫・噴流・洗浄・冠水)を洗い出す。
- 第一特性数字を決める:粉塵・オイルミストが多い環境なら防塵形5以上、完全防塵が必要なら6。接触保護の要求(安全規格・設置場所)も確認。
- 第二特性数字を決める:屋外の雨は4〜、ホース洗浄は5〜6、冠水の可能性は7を検討。噴流と水没が併存するなら併記も。
- 過剰スペックを避ける:等級を上げるほど密閉方向となり、放熱・結露・コストが不利になる。必要十分な等級に絞る。
- 放熱・結露との両立を設計する(次章):目標等級を保ったまま熱を逃がす方式を選定する。
▶ 内部リンク:制御盤の塩害対策のポイント
7. IP等級を満たすための板金設計
IP等級は、部品選定ではなく“筐体をどう作るか”で決まります。同じ目標等級でも、扉構造・シール・溶接・放熱設計の巧拙で、防塵防水性能と製作コストは大きく変わります。ここが板金製作会社の技術が最も効く領域です。
7-1. 扉・開口部のシール設計
防塵防水性能の大半は、扉・点検口・配線引込口といった“開口部”で決まります。ガスケット(パッキン)を連続して押し当てる均一な面圧の確保、扉の反り・歪みの抑制、ハンドル/ヒンジによる締結力の配分、そして扉端部を内側へ折り返して雨水の直接侵入を断つ折り返し構造などが要点です。大型盤ほど扉の平面度確保が難しく、剛性設計とセットで考える必要があります。
7-2. 継ぎ目・溶接部・貫通部の止水
板金の合わせ目、溶接ビード、ケーブルグランドやボルト貫通部は、いずれも水と粉塵の侵入経路になります。溶接では歪みを抑えつつ連続溶接で隙間を塞ぎ、必要箇所にはコーキング(シール材)を施します。貫通部には適切なIP等級のケーブルグランドやパッキンを選定し、盤単体の等級を配線施工後も維持できるよう設計します。
7-3. 屋根・水切り・ドレンの造作
屋外盤では、屋根を水平にすると水や雪が滞留して荷重・腐食・凍結の原因になります。屋根を傾斜させて排水を促し、庇(ひさし)や水切りで扉面への雨水の回り込みを抑えます。内部に結露水が生じる場合に備え、電気部に触れない位置へ排水するドレン経路を設けることも有効です。
7-4. 最大の技術課題:IP等級と放熱の両立
IP等級を上げるほど筐体は密閉方向へ向かい、内部のインバータ・電源・PLCなどの発熱がこもりやすくなります。防塵防水と放熱はトレードオフの関係にあり、これを両立させることが盤設計で最も難しく、差が出る部分です。主な方式は次の通りです。
- 自然放熱・防水ルーバー:発熱が小さい場合。ルーバーやフィルタは等級を下げやすいため、迷路構造や防水フードで等級を確保する。
- フィルタファン(強制通気):外気を取り込むためIP54前後が上限になりやすい。粉塵・油分環境ではフィルタ管理が必要。
- 熱交換器(内外気分離):内気と外気を混ぜずに熱だけ交換。高いIP等級を保ったまま放熱でき、粉塵・油分環境に適する。
- 盤用クーラー(冷凍式):内外気を完全分離する密閉方式のため防塵性が高い。高発熱・高温環境向け。ただし結露対策が前提。
| 結露という盲点:密閉して等級を上げるほど、昼夜の温度差や急冷で盤内に結露が発生しやすくなります。結露は絶縁低下・錆・誤動作の原因となるため、冷却時の吐出温度差を抑える設計、ヒータ(結露防止用)、通気と密閉のバランスなど、防水と同じ比重で結露対策を織り込む必要があります。 |
8. 関連する保護指標(NEMA・IK・WPコード)
NEMA規格:米国のNEMA 250はIPコードと似た目的の外郭規格ですが、腐食・氷結・油といった条件も含むため、IPと完全な一対一対応はしません。輸出案件では要求元がNEMAかIPかを確認します。
IK等級(IEC 62262):外部からの機械的衝撃(耐衝撃性)を表す指標で、IPとは別軸です。屋外や人が触れる場所の盤では、IPに加えてIK等級が要求されることがあります。
WPコード(風雨等級):IP試験が規定の噴流・散水で評価するのに対し、実環境の「風+雨」の複合条件を評価するために国内メーカーが独自に定めた指標です。屋外盤で風雨性能が重視される場合の補足指標となります。
| CEマーキングとの関係:欧州向け輸出製品のCEマーキングでは、IEC 60529に基づくIPコードが要求事項に含まれることがあります。海外規格対応が絡む案件では、要求等級と試験成績の扱いを早期に確認しておくと手戻りを防げます。 |
9. IP等級を指定して製作を依頼する際のポイント
9-1. 見積・相談時に伝えるべき情報
- 目標IP等級(未定なら使用環境を具体的に:異物・水のかかり方)
- 設置場所(屋内/屋外/洗浄/冠水の可能性)と気象条件
- 内部機器の総発熱量・許容内部温度(放熱方式選定に必須)
- 洗浄水に洗剤・薬品を含むか(真水試験の限界に関わる)
- 扉・点検口の枚数、開閉方向、鍵/インターロック仕様
- 外形寸法・材質・表面処理、ケーブル引込の位置と本数
- 海外規格(CE/NEMA等)・IK等級の要求有無
- 数量・希望納期
9-2. 設計から一貫対応できる会社に依頼するメリット
IP等級は、扉構造・シール・溶接・貫通部・放熱・結露対策という筐体全体の作り込みで決まります。設計と製作が分断されていると、「図面上は満たすはずが実物では性能が出ない」「等級を優先した結果、熱がこもって別のトラブルが起きる」といった事態が起こりがちです。
盤の詳細設計から板金製作・塗装・組立までを一貫対応できる会社に依頼すれば、目標等級・放熱・結露・コストを同時に最適化した構造を設計段階から作り込めます。屋外・洗浄・高発熱・海外規格・短納期といった条件が重なる案件ほど、この一貫対応の価値が大きくなります。
| 必要なIP等級と放熱・結露対策を両立した盤を、設計から製作まで一貫対応。屋外・防水・短納期のご相談も歓迎します。 |
10. まとめ
制御盤のIP保護等級は、単なる2桁の数字ではなく、規定の試験条件に裏付けられた設計要件です。選定・製作は次の順で進めるのが確実です。
- 設置環境の異物・水のかかり方を具体化する
- 試験方法の意味を踏まえて必要な第一・第二特性数字を決める
- 過剰・不足のない目標等級を設定する(放熱・コストとの兼ね合い)
- 扉シール・止水・放熱・結露対策を含む筐体構造を設計する
- 目標等級を満たす設計・製作を一貫対応できる会社に依頼する
当社では、制御盤・電装ボックスの詳細設計から板金製作・塗装・組立まで一貫して対応しております。必要なIP等級を満たす屋外盤・防水盤・耐候盤の設計・製作はもちろん、放熱・結露対策や海外規格対応、短納期のご相談も承ります。図面が未確定の段階からのご相談も歓迎いたします。